祖母の針仕事
針仕事のこと
祖母の針運びは今思い出しても見事だった。
一定のリズムで、チクチク・チクチク同じ幅に針を刺していく。
大正生まれの祖母はよく私にぼやいていた。
『おまえはいいなぁ、ちゃんと学校に行けて。』
8人兄弟で長女の祖母は、家の仕事の手伝い、弟と妹の世話であまり学校に行けなかったそうだ。
〝もっと勉強したかった〟という言葉は祖母の口癖で、その後は必ずこう続く、
『だから洋裁の勉強だけは一生懸命やったの。』
チクチク・チクチク、時々針の滑りを良くするために、自分の髪の毛に針を這わせる。
左手で布を上下・上下に動かして、針はどこまでも布の海を泳いでいるようだった。
祖母のお裁縫箱は、フランス国旗のようなお菓子の缶箱で、
その中には、
針刺し、針、まち針、指ぬき、チャコ、糸切狭、裁ち鋏、白と黒と赤の糸。
たったこれだけの道具で着物一枚縫い上げてしまう。
やっぱり、すごいなと思う。
私は、母方の祖父に買ってもらったリカちゃん人形を大切にしていた。
祖母はリカちゃんにもよく浴衣を縫ってくれた。
正直なところを言うと、おもちゃ屋さんに売っているヒラヒラ・フリフリのドレスの着せ替えが欲しかったけど、そうそう買ってもらえるものではない。
けれど私は祖母が縫物をしているのを見ているのが好きだった。
だから、リカちゃんの服を作っている姿も目に焼き付いている。
裁縫箱を眺めるのも好きだった。
必要なモノが必要なだけ、きちんと整頓されていつも同じ場所に置かれていた。
今の私を作り上げたのは祖母の姿。
それがなんだかとても幸せに感じる。
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